GAME TESTING
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第7章:ローカライズテスト

7.1 ローカライズテストの原則と概念

7.1.1 ローカライズとインターナショナリゼーション


動画再生アプリ、ゲームソフト、OSなど、どのような製品であっても、
ローカライズ(提供地域の言語・文化に合わせた調整)には共通する手順や技術があります。
一方で、ソフトウェア開発会社ごとに、独自の手法が取り入れられることもあります[Chandler11]


ゲーム開発とは、アイデアをプログラム(コード)によって形にし必要なコンテンツをプレイヤーに提供することです。

開発の初期段階では、ゲームを「どの市場向けに展開するか」を決めることが重要です。

● 市場を考慮しなければ、将来的な販売に悪影響を及ぼす可能性がある
● 地域ごとに適切なバージョンを作成することは、その市場で成功するために不可欠
● 多くのゲームは、販売予定の市場に合わせた調整が求められる
● 適切な市場適応を行うことで、売上を大幅に向上させることができる


国内版の開発が完了した後に、国外でのリリースが決まる場合もあります。
(企業が海外展開のための資金を確保した場合や、現地のパートナーが宣伝を担当することになった場合など)

そのため、ゲーム開発の際には、将来を見据えて国外向けにも対応しやすい設計をする必要があります。
これが考慮されていない場合、国外向けの調整に多大なコストやリソースが必要になる可能性があります。


インターナショナリゼーション ( グローバル対応 )


特定の地域向けに製品を適応させる際の課題を軽減するために、 インターナショナリゼーション(以下グローバル対応)というプロセスが存在します。

グローバル対応[1]とは、どの地域でも販売可能なように製品を設計することであり、
特定地域向けに製品を調整するローカライズ[2]とは異なります。

ソフトウェアのグローバル対応とは、後に翻訳やローカライズがしやすくなるように、開発段階で行う一連の準備作業を指します。

[1]グローバル対応
ローカライズに備えて、特定の言語や地域に依存しないようにあらかじめ設計・開発しておく事前準備。

[2]ローカライズ
特定の言語や文化に合わせて製品の内容を実際に調整する過程。

グローバル対応は通常、開発の初期段階でソフトウェア開発者が中心となって進められ、翻訳者や言語の専門家が関与することはあまりありません。
一方、ローカライズは専門知識を持つ翻訳者(場合によってはネイティブスピーカー)が関与して行われます。

グローバル対応の主な取り組みは以下のとおりです。


ローカライズ国際的な利用を考慮し、ソフトウェアを設計・開発します。
たとえば、Unicode[3]の活用や、必要に応じた文字コードの対応を行います。

[3]Unicode
世界中の文字を一つの共通ルールで表現できる国際的な文字コード規格。
アルファベット、漢字、ひらがな、アラビア文字、絵文字など、あらゆる言語の文字を一貫した方法で扱える。

将来的なローカライズに備え、現在は使われていない機能であってもあらかじめ実装しておくことがあります。

たとえば、双方向テキストの処理をDTD(ドキュメント型定義)[4]に追加したり、
CSS(カスケードスタイルシート)[5]に縦書きやラテン文字以外の文字をサポートする機能を組み込むことなどが挙げられます。

[4]DTD(ドキュメント型定義)
XMLやHTMLなどのマークアップ言語で使用される、文書の構造や使用可能な要素・属性を定義するルールの集合です。

[5]CSS(カスケードスタイルシート)
WebページやゲームUIなどの見た目(レイアウト、文字サイズ、色、配置など)を制御するスタイル定義言語です。

地域・言語・文化的な要素に対応できるようにします。

通常、これには事前にローカライズされたデータや、専用ソフトウェアに保存された翻訳文が含まれます。
たとえば、日付や時刻の形式、現地のカレンダー、数値形式や数体系(ローマ数字やアラビア数字)、リストの選択・表示方法、 名前や連絡先の扱い方などが考慮されます。


プログラム(コード)やコンテンツからローカライズに関連する要素を分離し、
プレイヤーがダウンロードして追加できるようにしたり、好みに応じて選択可能にします。

通常、これは言語パックの形式で提供されます。

グローバル対応には、翻訳やローカライズそのものは含まれません。
あくまでローカライズを円滑に進めるための準備段階にあたります。


ローカライズ


ローカライズとは、ソフトウェアを特定の国や地域の文化や言語に適応させるプロセスを指します。
ユーザーインターフェース(UI)、ドキュメント、および関連ファイルの翻訳は、ローカライズ作業の中でも代表的な処理のひとつとされます [Retsker81]

※原文では「A special case of localization」と記されていますが、 現在の実務においては一般的な作業と考えられるため、本訳では原文と異なる表現に変更しています。


ゲームのローカライズには、以下の作業が含まれます。

● ゲーム内のセリフ、字幕、ヒント、説明文、メッセージ、キャラクター名やアイテム名の翻訳
● 起動時画面などを含むUI、メニュー項目などの翻訳
● テクスチャやグラフィックの再描画・調整
● 声優の選定、吹き替え、音声ファイルの録音
● ローカライズ済み素材のゲームクライアントへの組み込み
● プロジェクトのウェブサイトや印刷物の翻訳・調整
● 広告資料(ニュース、プレスリリース、マーケティング資料)の翻訳
● ローカライズ版のリリース後のゲームサポート(アップデート、ニュース、パッチ対応)


ローカライズテストとは、ゲーム製品がターゲット市場(国や地域)に適切に適応されているかを検証するためのテストです。

このテストでは、主に文化的・言語的な側面に注目し、UIやドキュメント、ファイルの翻訳が適切かどうか、
また通貨、数字の表記、時間のフォーマット、電話番号の形式などがターゲット市場に合わせて正しく設定されているかを確認します。


ローカライズテストでは、ゲームアプリケーションの内容が、言語や文化の要件、地域ごとの特色に適しているかを確認します。
このテストを行うことで、最終製品がプレイヤーに届く前に「ローカライズに関する欠陥」や「翻訳の不具合」を発見し、修正することができます。


ローカライズテストの目的は、異なる市場や地域設定(ロケール)向けにローカライズされた製品の欠陥を特定し、修正することです。
重要なのは、ローカライズは単なる多言語翻訳ではないという点です。

また、「ローカライズテスト」と「言語テスト(Linguistic Testing)」は混同されがちですが、それぞれ異なる目的を持つテストです。
言語テストは、スペルミス、文法エラー、文体の不自然さなど、翻訳品質に重点を置いたチェックです。


7.1.2 「ゲーム製品」と「アプリケーション」のローカライズの違い


ゲーム製品」と「アプリケーション」では、ローカライズ時に重視される要素が大きく異なります。
製品ごとの特性の違いにより、ローカライズ時に考慮すべき点やテスト方法も異なります。

主な違いは以下の通りです。

● 対象ユーザーに合わせたグラフィックコンテンツの調整
● 音声コンテンツの吹き替えと調整
● テキストコンテンツの翻訳と適応
● ジャンル特有の用語や表現の調整


一般的に、グラフィックコンテンツはターゲット層に合わせた調整が必要です。
これには、標識、キャラクター、ゲーム内オブジェクト、マップ、シンボル、アイテム、広告画面などが含まれます。

音声コンテンツも慎重にローカライズする必要があります。
多くの場合、ゲーム製品の音声コンテンツはターゲット言語の声優による吹き替えが求められ、台詞のニュアンスや話者の感情に応じた調整が求められることもあります。


ゲームに使用されるテキストコンテンツは多様な文体が混在しているため、正確な翻訳と適切な調整が求められます。
たとえば、ゲームでは以下のような文体が使われることがあります。

● 科学的な文体(メカニズムの説明や指示書)
● 報道的な文体(新聞、雑誌、記事)
● 文学的な文体(日記、小説)
● ビジネス文体(契約書や公式文書)
● 日常的な口語体(キャラクターの会話)


たとえば、アドベンチャー(クエスト)ゲームでは、科学的な文体、報道的な文体、日常的な口語体など、さまざまな文体が使われることがあります。
これは、プレイヤーが指示に従って装置を修理・組み立てたり、新聞から必要な情報を探し出したり、人々に聞き込みをしたりする必要があるためです。


ゲーム製品のローカライズでは、歴史的な正確性や、宗教、文化、政治、イデオロギーなどの考慮が必須です。
これらを適切に配慮しないと、ターゲット層の誤解を招いたり、特定の国や地域で販売や配信が禁止されるリスクがあります。


ゲーム製品をローカライズする際には、そのジャンルや文学的な特徴を維持する必要があります。

たとえば、マルチプレイヤーRPGの場合、プレイヤーの種族名やアイテム名など、ジャンル特有の用語を適切に翻訳しなければなりません。
場合によっては、ターゲット文化に合わせて調整しつつ、ジャンルの雰囲気を保った表現が求められます。


高品質なゲーム製品の翻訳には、追加の知識や背景情報が必要になることがあります。
たとえば、他のゲーム製品やメディア作品、ときには現実の出来事への言及が含まれる場合、それらを正しく理解した上で翻訳する必要があります。

以下は、ゲーム製品のローカライズテストにおける基本的なアプローチの一部です。


7.1.3 ローカライズテストの段階


ローカライズテストでは、翻訳の正確性、画面表示やボタンといったインターフェース要素、エラーメッセージ、FAQやヘルプの内容を確認します。


翻訳テスト


翻訳テストの目的は、ゲームの多言語インターフェースにおける翻訳ミスの有無を確認することです。
これには、住所、名前、通貨、日付や時刻の表記形式が適切かどうかも含まれます。


国によって使用される数値単位が異なるため、速度、長さ、重さ、温度といった値が各国の基準に適合しているかを確認する必要があります。


たとえば、「あなたは時速62マイルで移動しています」というメッセージは、
メートル法を採用している国のプレイヤーには直感的に理解しにくい場合があります。
この場合、単なる数値の変更だけでなく、単位そのものを変更する必要があります(例:時速100キロ)。

【参考情報】
なお、数値の区切り方も国によって異なり、プログラムの動作やユーザーの理解に影響を与える可能性があります。たとえば、以下のような違いがあります。
「123,456」:日本、アメリカ、中国
「123.456」:ドイツ、イタリア、スペイン
「123 456」:フランス、ロシア
「123'456」:スイス
「1,23,456」:インド(※10万以上の数値では、末尾から3桁目の左にコンマを付け、それ以降は2桁ごとにコンマで区切る)

また、ゲーム内で購入に使用する通貨もローカライズが必要です。
価格ローカライズの基本的な例としては、製品がアクティベートされた地域の通貨へ自動変換されることが挙げられます。

この際、単に為替レートで金額を換算するだけでなく、適切な通貨記号を表示することも重要です。
さらに、アプリケーションの開発時には、ソフトウェア配信プラットフォーム側が地域ごとに独自の価格を設定する場合があることも考慮しなければなりません。

また、多くのゲームではゲーム内ストアの価格(開発側が設定するもの)も、地域によって異なる通貨に変換され、国や地域ごとに価格が調整されるのが一般的です。


グラフィックのローカライズ


ローカライズにおいて、グラフィックも重要な調整対象のひとつです。

ゲームを発売する国の文化や法律に合わせた変更が必要です。
たとえば、国ごとに異なる「道路標識」を適切に調整する必要があります。
また、地域特有の祝祭日を反映した画像やシーンを追加することもあります。
特にムスリム諸国では、人や動物の画像が削除され、幾何学模様や植物を用いた装飾(アラベスク模様)に差し替えるといった大幅な修正が行われることがあります。

【参考情報】
イスラム教圏では、偶像崇拝を避ける宗教的な理由から、人や動物など「命あるもの」の画像使用が制限されることがあります。
そのため、ローカライズ時には、それらの画像を幾何学模様や植物のモチーフに置き換えるなどの配慮が必要とされることがあります。

中国の旧正月も特に人気のあるテーマの一つです。
多くのゲームでは、インターフェースに提灯、ドラゴン、花火といった伝統的な装飾が施されます。
また、期間限定のコンテンツ(たとえば、中国神話に基づいたキャラクタースキンや、爆竹・ロケットの発射アニメーション、豚やドラゴンに乗るキャラクター)を追加することもあります。


ユーモアやストーリーの調整


ゲームに登場するジョークやストーリー展開は、各国の文化や価値観に合わせて適切に調整する必要があります。
場合によっては、ストーリー全体をその国向けに一部変更することもあります。

ローカライズは単なる翻訳作業にとどまらず、文化的背景や道徳・倫理面での調整も含まれます。


ローカライズテストで特に注意すべきテーマ


ローカライズテストでは、次のようなテーマに特に注意を払う必要があります。

● 宗教(オカルトやサタニズムを含む)
● 性的な描写、露出の多いキャラクター、または下品な表現
● 文化や特定の人々に関する偏見やステレオタイプ
● 戦争、軍事紛争、テロ
● 政治(国ごとに異なる歴史観など)

たとえば、ゲーム内にコーランの一節が含まれている場合、ほとんどのイスラム諸国ではそのゲームが禁止される可能性があります。

現代社会では政治的な配慮(ポリティカル・コレクトネス)が極めて重要視されており、その遵守が厳格に求められます。


コンプライアンステスト


ローカライズテストでは、販売対象国の法律や規制にも注意を払う必要があります。

たとえば、国によって成人とみなされる年齢が異なります。
ロシアでは18歳が成人ですが、アメリカでは州によって18歳から21歳まで異なります。

※日本では2022年4月1日の民法改正により、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。


同一のゲームであっても、各国の異なる年齢制限制度に従う必要があります。


Game rating in different countries
https://www.kaspersky.com/blog/gaming-age-ratings/11647/

ゲームやアプリを各国で販売する際には、単なる言語の翻訳にとどまらず、その国固有の法制度文化的背景にも配慮したローカライズテストが求められます。


また、ゲーム内の通貨や取引の扱いについても慎重な配慮が必要です。
たとえば、一部の国では外国為替取引が政府機関に限定されており、該当地域でゲームを提供することで深刻な問題に発展する可能性があります。

ゲーム内での通貨取引には、ルートボックス(ガチャ)の購入も含まれる場合があります。
ルートボックスには、キャラクタースキン、消費型アイテム、アップグレード、乗り物などが含まれます。

【参考情報】
一部の国では、外国為替取引が政府機関に厳しく管理されており、
ゲーム内で通貨を購入 → 換金・取引 → 外貨と実質交換
という流れがあると、「事実上の無許可為替取引」とみなされる可能性があります。

また、仮想通貨に近い性質を持つゲーム内通貨(トークン型、NFT連動型など)は、金融商品と見なされるリスクもあります。

たとえば中国では、2016年12月に文化部がオンラインゲームにおける仮想アイテムの取得確率の公開を義務付ける法律を発表し、2017年5月に施行されました。
また、オーストラリアでは、ルートボックスが現金や価値のあるものと交換可能な場合ギャンブル規制の対象となります。
ゲーム内アイテムの価値が、人気や希少性に依存していたとしても、規制の対象となる可能性があります。


色彩と象徴表現 ( シンボル )


特定の色やシンボルは、国や地域によって異なる意味を持つため、ローカライズテストではそれらの影響も考慮する必要があります。

【例:
● 中国では「忍耐」や「信念」の象徴
● インドでは「純粋さ」を表す
● ヨーロッパでは「罪」や「犠牲」を意味することがある
● 南アフリカでは「悲しみ」の象徴
● アメリカや日本では「危険」や「テロの脅威」を示すことが多い
● エジプトでは「喪」を象徴する

そのため、ゲームのテストにおいても、使用する色が地域ごとの文化的な意味に適しているか注意を払うことが重要です。


さらに、テストでは国ごとの「キーボードの配列」や「ホットキー」の違いにも注意を払う必要があります。

また、アプリケーションが「クラウドストレージ」や「ソーシャルネットワーク」といったサードパーティのリソースと連携している場合には、
それらのサービスが地域ごとに利用可能かを確認する必要があります。

以下はグローバル対応ローカライズのテストプロセスの主な違いです。

グローバル対応ローカライズ
さまざまな言語を扱うための
UTFエンコーディングへの対応
翻訳の適用
データ形式の標準化法的要件の確認
テキストの方向(左から右、右から左)通貨や外国為替の適用
色やシンボルの適正化
キーボードレイアウトやホットキーの適合
サードパーティリソースとの互換性確認


7.2 ローカライズの欠陥の種類と原因

7.2.1 ゲームのローカライズ上の欠陥の原因


大手企業であっても、地域の文化や価値観に配慮を欠いた表現によって問題を引き起こすことがあります。
どのアプリをリリースする際も、テスターはその地域の慣習や過去の事例、既存の規制を十分に理解しておく必要があります。

場合によっては、たった一つのフレーズやジョークが原因で、特定の国で販売が禁止されることもあります。
次のようなローカライズの問題(例:特定地域で禁止されている内容や表現)に注意を払う必要があります。

● 画像
● 音声や音楽
● 現実的または歴史的なシーン
● フレーズや引用表現


7.2.2 ローカライズ上の欠陥とリスク


テスターが、対象となる言語や製品について十分な知識を持っていない場合、ローカライズテストの難度が大幅に上がります。
特に、医療、技術、スポーツなどのシミュレーションゲームでは、専門的な知識が求められるため、より注意が必要です。

また、ローカライズテストにはかなり時間がかかることがあります。
これは、地域ごとの文化的な特徴や言語の違いを学ぶのに時間が必要だからです。

主なローカライズの問題は以下のように分類できます。


技術的な問題

文字化け
文字化け/ゴミ文字
誤った文字エンコーディングが適用された結果、テキストが崩れて表示される現象。
その結果、意味不明な文字列に置き換わり、時には別の言語の文字として表示されるため、
テキストの内容が判読不能になります。
テキストが画面に収まらない
翻訳されたテキストが画面に収まらない
言語ごとの文字数の違いにより、翻訳後のテキストが指定された枠内に収まらなくなることがあります。
レイアウトのズレ
レイアウトのズレ
アプリがローカライズされると、UIの配置がずれる場合があり、適切に調整する必要があります。
未翻訳のテキスト
未翻訳のテキスト
ダイアログボックス、画像内のテキスト、UI内の要素などに未翻訳の部分があると、
プレイヤーの混乱を招く可能性があります。
UI要素の重なり
UI要素の重なり
ウィンドウやダイアログ内のボタンなどが他の要素と重なり、
視認性が悪化したり、操作しにくくなることがあります。
翻訳の欠落
翻訳の欠落
ローカライズの過程で一部のテキストが抜け落ちることがあり、これにより意味が通じなくなることがあります。
フォントやサイズの違い
フォントやサイズの違い
言語ごとに適切なフォントやサイズが異なるため、適切に調整しないと可読性が低下する可能性があります。
たとえば、アジア諸国では通常フォントサイズ9が使われ、アメリカではフォントサイズ8が使われます。
機能には影響しない場合もありますが、これにより文字が読みにくくなることがあります。
ホットキーの誤り
ホットキーの誤り
ローカライズ言語やキーボードの特性により、特定の文字が使用できず、
ホットキーが利用できない場合があります。
テキストテンプレート内の変数
テキストテンプレート内の変数
テキストテンプレート内の変数は、言語ごとの文法構造の違いにより、語順や助詞、活用形が変化することがあります。
開発者が変数を含む文を無理に分割すると、文法的に不自然になってしまうことがあります。
【参考情報】
テンプレート:The event starts at + {time}. ※timeが変数
英語表示  :The event starts at 14:00.
自然な日本語:イベントは 14時に開始されます。

英語は {time} をそのまま挿入できますが、日本語は「に」「を」など、助詞と文型の再構築が必要になります。
音声と翻訳の不一致
音声と翻訳の不一致
翻訳されたセリフの長さが元の音声と異なることで、
キャラクターの口の動きと合わなくなることがあります。
翻訳の誤りや不適切な音訳
翻訳の不整合
固有名詞、日付、数値、歴史的な出来事、祝日、現実の事象、専門用語、スラング、俗語、略語、
「印象的な」名前やニックネームなどが、誤って翻訳されたり、不適切に音訳されてしまうことがあります。
翻訳の一貫性の欠如
翻訳の不整合
アプリケーション内で一つの用語に対して複数の訳語が使われていると、ユーザーの混乱を招くおそれがあります。
用語の不統一により、意味が矛盾したり、操作に支障をきたす可能性もあります。

コンテンツの文化的適応

ユーモア
ユーモア
ジョークやユーモアの受け取られ方は文化によって異なるため、慎重に考慮する必要があります。
また、特定の人物やグループを対象としたユーモアが社会的に許容されるかどうかも重要な要素となります。
宗教
宗教
国や地域ごとに宗教施設や儀式、信仰に対する敬意の示し方が異なるため、適切な配慮が求められます。
また、サタニズムや異教信仰(異端的宗教)に対する受け取り方もさまざまであるため、宗教的表現の扱いには特別な注意が求められます。
歴史的な出来事や解釈
歴史的な出来事や解釈
歴史上の出来事、軍事衝突、科学的発見などの描写には注意が必要です。
また、実在する物体・建造物の外観と特徴、民族の生活様式に関する表現は、対象となる文化圏における受け止め方を考慮する必要があります。
国民文化や世界観の特性
国民文化や世界観の特性
子どもや性表現、暴力、異文化への態度、民族ステレオタイプ、伝統的な料理や衣服、ライフスタイル、
性的マイノリティや動物への扱いに対する価値観は国によって大きく異なります。
それぞれの文化における価値観を十分に考慮する必要があります。
法的な制限
法的な制限
年齢制限や児童保護に関する規制、宗教的信仰に関わる法律、
暴力・薬物・性行為・人種差別・テロに関する規制、
さらには特定のシンボルの使用禁止など、各国の法律やルールを遵守する必要があります。
過剰なローカライズ
過剰なローカライズ
すべてをローカライズする必要はありません。
商標やロゴ、略語、製品名などは、オリジナルのまま保持することが望ましい場合があります。
過度なローカライズは、ブランドイメージや認知度の低下につながる可能性があるため注意が必要です。

7.3 ローカライズテストの方法と実施

7.3.1 完全なローカライズテストと部分的なローカライズテストの違い

完全なローカライズテスト


これはローカライズ全体に欠陥がないかを徹底的に検証するテストです。

新規のローカライズ作業を行う際に適しており、すべてのテキストが翻訳され、まだ一度もテストが実施されていない場合に実行されます。
あらゆる種類のテストを行うため、最もコストがかかるテストとなります。


部分的なローカライズテスト


これはすでにテストされたローカライズのうち、一部のテキストが変更された場合に実施するテストです。
メインストーリーの大規模アップデートに伴う変更箇所はバリデーションによって特定され、変更されたテキストのみがテスト対象となります。

変更されたテキストは、ゲーム内で元々使われていた文体や用語と一致している必要があります(たとえばキャラクターの口調など)。
このテスト方法は、効率とコストの両立を図る上で、最適なテスト手法とされています。


7.3.2 ゲームの開発過程におけるローカライズテストの手順と方法


ローカライズテストでは、翻訳が正確かどうか、サポートファイルに矛盾がないか、インターフェース内のテキストや要素が正しく整列・調整されているか、
そしてテキストの記述ルールが守られているかを確認します。

このテストの目的は、ゲームが複数の言語に対応する際に、翻訳に関連する問題が発生していないかを検出することです。
たとえば、日付や数字の表記、住所の形式、名前の順序、通貨の単位などが、各言語や地域に適した形で表示されているかをチェックします。


ローカライズテストには以下の手順が含まれます。

● 対応する言語リストの決定および調査
● 翻訳の正確性テスト(ユーザーインターフェース要素、システムメッセージ、エラーメッセージを含む)
● 「ヘルプ」セクションや付属文書(該当する場合)の翻訳検証


ローカライズテストでは、「基準となる既存翻訳」と「翻訳チームが新たに作成した翻訳」を比較し、以下の点を確認します。

● 文法や句読点、表現の誤りがないか
● 地域ごとの規則に違反していないか(日付や時刻の形式、単位、法的基準など)
● 重要な技術データ(変数やフォーマット設定など)が欠落していないか
● 「基準となる翻訳」のスタイルや文脈と一致しているか
● ゲーム内のインターフェースでテキストが適切に表示されているか(行の長さや、フォントの表示形式の乱れ など)


これらのテストは、基本的にテストチームが実施する必要があります。
ただし、文法や句読点、表現、スタイルや文脈のチェックについては、
すべての言語に対応できるテスターを確保するのが難しいため、ローカライズ担当者が実施することが一般的です。

テスターは、地域の規則に適合しているか、必要な技術情報が欠けていないか、テキスト表示に欠陥がないかを確認します。


ローカライズテストの準備


ローカライズテストの準備段階では、以下の対応を行います。

● テスターに必要な製品の資料を提供する
● 用語集や翻訳メモリを作成し、テスターが用語を正しく理解できるようにする
● すでにローカライズされた製品がある場合、評価用として前バージョンを提供する
● ローカライズテスト中に発見された欠陥を記録するための欠陥管理ツールを選定・設定する


地域や文化的な特徴のテスト


これはローカライズテストの重要なステップの一つです。
ローカライズ後のゲームのスクリーンショットやビルドを用いて、以下の点を検証します。

● 日付や時刻の表記が、対象地域の形式に適合しているか
● 電話番号や住所の書式が、地域の標準に沿っているか
● 色の使い方(カラースキーム)が文化的に適切か
● 製品名が地域の基準に違反していないか
● 通貨の表記が正しいか
● 単位の表記が正しいか


言語のテスト


言語の適切性を検証します。テスターは以下の点を確認する必要があります。

● 同じ用語が一貫して使用されているか
● 文法に誤りがないか
● スペルミスがないか
● 句読点の使用が正しいか
● テキストの表示方向(左から右、右から左など)が適切か
● ブランド名、地名、肩書きなどが正確に使用されているか


ユーザーインターフェース ( UI ) のテスト


UIのローカライズにおいて、次の点を確認することが重要です。

● 画像内のキャプション(説明文)がすべてローカライズされているか
● ローカライズ後もオリジナルのレイアウトが維持されているか
● ページや画面の改行位置が、対象言語のルールに合っているか
● 会話やポップアップ、通知が正しく表示されているか
● 翻訳文が長くなっても、ボタンやUIの枠をはみ出さず、表示が崩れていないか


機能テスト


ローカライズされたアプリケーションが正常に動作するかを確認します。以下の点に注意が必要です。

● ローカライズ後の機能が正常に動作しているか
● 入力機能(フォームや文字入力)が正しく動作するか
● 特殊文字が各地域や言語に適切に対応しているか
● キーボードのホットキーが有効に機能しているか
● 各種フォントが適切に表示されているか
● フォーマットの区切り文字(カンマやピリオドなど)に対応できているか


動画・音声のテスト


動画および音声の検証には、以下の確認が含まれます。

● 台詞やナレーションの長さが、ゲーム内のシーンや要素と適切に合っているか
● 台詞や音声がキャラクターの性別や設定に合っているか
● 音声が明瞭であるか(ノイズの有無、オリジナル音声との同期や音量バランス)
● サウンドトラックが正しく再生されているか(歴史的背景の整合性を含む)
● サウンドのスタイル(音楽ジャンル)や話者のアクセント・口調が文化的に適切かどうか


7.3.3 ローカライズテストの種類

「ボックス」ローカライズ


ゲームが物理メディア(ディスクやカートリッジなど)で販売される場合、パッケージに記載される情報がローカライズされます。

一方で、オンラインプラットフォームで販売される場合は、ストアページ(商品説明やスクリーンショットなど)の内容が翻訳されます。

このようなパッケージやストアページの翻訳を「ボックス」ローカライズと呼びますが、
その範囲は基本的にパッケージやストアページなど販売時に表示される情報だけを翻訳対象とするもので、
ゲーム本体のUIや音声、ストーリーには手を加えません。


インターフェースローカライズ


ゲーム内の説明文やパッケージ情報に加え、メニューやボタンのラベルヘルプページなどのインターフェースも翻訳されます。

なお、珍しいケースとして「Play」ボタンは英語にもかかわらず、 ゲームのストーリーやセリフはまったく別の言語という、言語が混在した状態になっているケースもあります。


テキストローカライズ


通常、ゲーム内のすべてのテキストが翻訳対象となり、字幕も含めてローカライズされます。

たとえば、キャラクターが英語のスラングを話していても、字幕ではその意味を伝える形で別の言語に翻訳されることがあります。


ボイス付きローカライズ


セリフや会話は翻訳され、声優によって声を吹き込まれます。

質の高いボイス付きローカライズが行われると、違和感がなく、自然な仕上がりになります。


グラフィックローカライズ


ゲーム内には、テキストだけでなく、看板や壁の落書き、新聞など、グラフィックとして描かれた文字も含まれています。
グラフィックローカライズでは、これらの文字情報を翻訳することが求められます。

ただし、ゲームの舞台や設定によって翻訳の方針が変わることがあります。
たとえば、新聞記事のようにストーリー進行に関わる要素は翻訳しなければ重要な情報が失われてしまうため、翻訳されるべきです。
しかし壁の落書きのように装飾的な要素は、翻訳されない場合もあります。


ディープローカライズ ( 文化的適応 )


ゲーム全体を特定の国や文化に適応させるために作り直す手法です。

ゲームエンジンやソースコードといった基本的な仕組みを除き、キャラクター、ストーリー、セリフ、グラフィックなどを全面的に作り直すケースです。
こうした大規模な改変は珍しいものですが、そのままでは現地市場で受け入れられない場合に行われます。


7.3.4 関係者の役割と責任範囲

ライター/ナラティブデザイナー
ライター/ナラティブデザイナー
翻訳者
翻訳者
編集者
編集者
ローカライズテスター
ローカライズテスター

7.4 ローカライズテストをサポートするツール


ローカライズテストでは、さまざまな段階や課題を解決するために専用のツールを活用します。
代表的なツールには以下のようなものがあります。

● 視覚的文字列比較ツール:基準となる既存翻訳検証対象となる新規翻訳を目視で比較できるツール
● 自動文字列比較ツール:スクリプトやプログラム、ユーティリティを活用し、翻訳に誤りがないかを自動でチェックするツール
● ローカライズファイル構造検証ツール:翻訳ファイルに欠落や不要なファイルがないかをチェックするツール


自動ローカライズテストツールの例


● スクリーンショット比較ツール:既存翻訳新規翻訳の画面を比較し、画面上に大きな差異がある場合はエラーとして自動的に検出・通知するツール
● 差分検出ツール:既存翻訳に変更があった際、新規翻訳が正しく更新されているかを確認するツール
● 変数・数値比較ツール:既存翻訳新規翻訳に含まれる変数や数値が一致しているかをチェックし、不整合を検出するツール



International Software Testing Qualifications Board(以下、ISTQB®)
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